50代エリートの「ねんきん定期便」の例
年収1200万円・Aさんのプロフィールとは?
今回ご紹介するのは、大手金融機関に勤務する50代後半のAさん。現在の役職は課長で、月収はおよそ80万円、ボーナスを含めると年収は1200万円に達します。まさに日本の上位5%に入る「エリートサラリーマン」です。
Aさんには高校生と大学生の子どもが2人おり、教育費の負担は今がピーク。また、67歳までの住宅ローンも抱えており、決して「余裕のある生活」とは言い切れない状況です。配偶者はパート勤務で世帯収入を支えています。
Aさんは最近、送られてきた「ねんきん定期便」を見て、将来の年金額に不安を感じ始めました。その内容を詳しく見てみましょう。
ねんきん定期便に記載された金額の読み解き方
ねんきん定期便とは、現在までに納めた保険料や年金の受給見込み額などが記載された、いわば「将来の年金の成績表」です。50歳以上の場合、65歳時点での見込み年金額が記載されています。
Aさんの定期便を見ると、これまでに支払った厚生年金保険料は 2,074万円。これは「本人が負担した分」だけであり、会社が負担した分は含まれていません。会社負担分も含めると、なんと 約4,000万円 の保険料を支払ったことになります。
支払った厚生年金保険料は4000万円超!
「これだけ支払っていれば、老後は安泰だろう」と思われるかもしれませんが、現実は少し異なります。
Aさんの年金受給見込み額は、年間約250万円。これは国民年金(老齢基礎年金)と厚生年金(報酬比例部分)を合わせた金額です。
高収入で厚生年金の支払いも上限に近いAさんですが、それでも受け取れる年金は、現役時代の年収1200万円の およそ1/5以下 なのです。
年金制度の仕組みと上限のカラクリ
国民年金と厚生年金の「2階建て」構造
公的年金は「2階建て構造」です。
1階部分:国民年金(老齢基礎年金)
2階部分:厚生年金(報酬比例部分)
自営業者などは国民年金のみの加入となりますが、会社員・公務員などは厚生年金にも加入しており、両方の保険料を支払っています。

Aさんは上場企業に勤めるサラリーマンなので、この2階建て年金をフルで支払ってきました。
どれだけ高年収でも年金額に上限がある理由
公的年金には「標準報酬月額」という概念があり、月収が高くても、計算上の上限があります。2025年(令和7年)時点では、標準報酬月額の上限は 65万円。つまり、Aさんのように月収80万円以上あっても、年金の計算は65万円で打ち止めなのです。
また、ボーナスにも「標準賞与額」の上限があります。つまり、いくら稼いでも、その分がまるまる年金額に反映されるわけではないのです。
Aさんの年金額が250万円にとどまるわけ
Aさんの年金定期便には以下のように記載されていました。
- 老齢基礎年金(国民年金)…約70万円
- 老齢厚生年金(報酬比例部分)…約175万円
- 合計年金見込額…約250万円/年
満額の基礎年金(約83万円)に届かないのは、保険料の納付月数が480か月(40年)に満たないからです。とはいえ、ここまで支払ってきた厚生年金にしては、物足りない金額だと感じる方も多いでしょう。
夫婦の年金合計は?生活に足りるのか
Aさん夫婦の年金合計は実際いくら?
Aさんの年金:年間250万円
企業年金等の上乗せ:年間60万円
奥様のパートによる年金:年間90万円
合計:年金世帯収入は400万円
Aさん夫婦の年金合計は実際いくら?
老後の生活に必要な費用として、以下のような統計があります:
- 最低限の生活費:月約23万円(年間276万円)
- ゆとりある生活費:月約38万円(年間456万円)
Aさん世帯の年金収入(月約33万円)は、ゆとりある老後を実現するにはギリギリのラインです。しかし、住宅ローンや医療費の増加などを考えると、十分とは言えません。
企業年金や確定給付年金の存在
Aさんのように大企業に勤務している方には、企業年金(確定給付型)があるケースが多いです。Aさんは企業年金として月額5万円(年間60万円)を10年間受け取る予定です。
ただし、これは「有期年金」であり、10年経つと打ち切られる場合が多いのです。
高収入ほど注意!年金生活4つの落とし穴
社会保険料・税金で手取りが大幅減
年金額が高くても、手取り額は目減りします。
例えば年金収入が310万円の世帯の場合:
- 健康保険料:27万3700円
- 介護保険料:10万800円
- 所得税:5万3092円
- 住民税:11万5400円
- 合計:54万302円(約18%)
手取り額は 約246万円 にまで減少します。
高所得ゆえの医療・介護負担増
75歳以降は原則1割負担になる医療費ですが、「現役並み所得者」に該当すると 3割負担 のまま。年金額が高いがゆえに、逆に医療費や介護保険の自己負担額が増えてしまうという矛盾が生じます。
企業年金が期限付きであるリスク
前述のように企業年金は10年や20年といった「有期」が一般的。仮に75歳で終了してしまうと、その後の生活費は大幅に減少。長寿社会の中で「長生きリスク」を抱えることになります。
生活レベルを下げられず貯金が底をつく現実
現役時代の収入が多かった人ほど、生活レベルを維持しようとして家計が破綻しやすくなります。「気づいた時には貯金が底をついていた」というケースも少なくありません。
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見込み年金額の注意点と落とし穴
ねんきん定期便の見込み年金額は、「今の収入が60歳まで続いた場合」を前提としています。収入が減れば、その分年金額も下がります。
また、60歳未満の方には将来の受給額の見込みすら表示されない場合があります。
会社が払った年金保険料はどこへ行く?
Aさんのように、会社が負担した保険料も含めると合計約4000万円を支払っています。
「これだけ払って年金が少ないのはおかしい」と思う方も多いですが、実はこの保険料の一部は、今の高齢者の年金として使われています。年金制度は「世代間扶養」の仕組みで成り立っているのです。
知らないと損する!年金制度の本当の目的とは
年金制度は「貯金」ではなく「保険」です。高所得者が多く払い、低所得者を支える再分配制度でもあります。ですから、収入が高い人ほど「自分が払った分が戻ってこない」と感じがちですが、それが制度の本質でもあるのです。
まとめ
年収1200万円のエリート会社員であっても、将来の年金額は 想像より少ない という現実。
しかも、税金や保険料が差し引かれれば手取りはさらに減り、医療・介護費用の負担も増えます。
それでも制度を正しく理解し、早めの備えをすることで安心な老後を迎えることは可能です。
「ねんきん定期便」は、自分の将来と向き合うための大切なツールです。ぜひ一度、じっくりと目を通してみてください。